大阪地方裁判所 昭和40年(ワ)2695号 判決 1976年7月12日
主文
一 本訴被告(反訴原告)は本訴原告(反訴被告)に対し、別紙第一目録二記載の建物を収去して、同目録一記載の土地を明渡し、かつ昭和四〇年七月二日以降昭和四八年七月三一日までは一ヶ月につき、三万八四一五円の割合による金員を、昭和四八年八月一日以降明渡ずみに至るまで一ヶ月につき二〇万四八八〇円の割合による金員を支払え。
二 反訴原告(本訴被告)の反訴被告(本訴原告)に対する反訴請求を棄却する。
三 訴訟費用は本訴反訴とも本訴被告(反訴原告)の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
1 本訴原告(反訴被告)
一 本訴請求の趣旨
主文第一項と同旨および「本訴の訴訟費用は被告の負担とする」との判決並びに仮執行の宣言。
二 反訴請求の趣旨に対する答弁
反訴原告の請求を棄却する。
反訴の訴訟費用は反訴原告の負担とする。
2 本訴被告(反訴原告)
一 本訴請求の趣旨に対する答弁
本訴原告の請求を棄却する。
本訴の訴訟費用は本訴原告の負担とする。
二 反訴請求の趣旨
反訴原告と反訴被告との間において別紙第二目録記載の土地が反訴原告の所有であることを確認する。
反訴の訴訟費用は反訴被告の負担とする。
第二 本訴についての当事者の主張
1 請求の原因
一 本訴原告(反訴被告―以下単に原告という)は明治三二年三月八日、別紙添付図面中(ヌ)(ル)(オ)(ワ)(カ)(ヨ)(タ)(ヘ)(ヌ)の各点を順次直線で結んだ範囲の土地(以下単に従前の本件土地という)を含む大阪市天王寺区上本町七丁目六五番地宅地三八五三・五一平方メートル(一一六五・六九坪)の土地(以下単に六五番地の土地という)の所有権を取得し、従前の本件土地は原告の所有に属する。
二 右六五番地の土地は大阪市復興特別都市計画事業の施行に伴い、昭和二三年一二月二五日施行者たる大阪市長により換地予定地として、大阪市復興特別都市計画土地区画整理上汐町工区九ブロツク符合五宅地二二三六・三六平方メートル(六七六・五〇坪)が指定され(原地換地)右換地予定地に対する使用収益権を取得した。
三 しかるところ本訴被告(反訴原告―以下単に被告という)は昭和三七年末ころより右換地予定地内の別紙第一目録記載の土地(以下単に本件土地という)の地上に同目録記載の建物(以下単に本件建物という)を建築所有して本件土地を占有し原告に対し賃料相当額の損害を蒙らせている。
四 よつて原告は被告に対し本件土地に対する使用収益権に基づいて本件建物を収去して、右土地の明渡を求めるとともに、本件訴状送達の翌日である昭和四〇年七月二日以降昭和四八年七月三一日までは一ヶ月三・三平方メートル(一坪)につき一五〇〇円、昭和四八年八月一日以降明渡ずみに至るまで一ヶ月三・三平方メートル(一坪)につき八〇〇〇円の割合による賃料相当額の損害金の支払を求める。
2 請求の原因に対する認否
一 請求原因一項中、原告がその主張の日時に従前の本件土地を含む六五番地の土地の所有権を取得したことは認めるが、従前の本件土地が現に原告の所有であることは否認する。
二 同二項中、六五番地の土地につき、大阪復興特別都市計画事業が施行され、その主張の日時に大阪市長より換地予定地の指定のあつたことは認めるが、本件土地は大阪市復興特別都市計画土地区画整理上汐町工区一〇ブロツク符合四宅地三三五〇・六四平方メートル(一〇一三・五七坪)の換地予定地内に存する。
三 同第三項中、被告が本件土地の地上に本件建物を占有して右土地を占有していることは認めるがその余の事実は争う。
3 抗弁
一 被告が抗弁第一項として主張するところは、反訴請求原因一項ないし五項および七項で主張するところと同一であるから、右の主張を全部ここに引用する。
二 かりに売買による第二の土地の所有権の取得の主張が認められないとしても、訴外石原は、昭和二〇年一二月中に右土地を含む反訴請求原因中にいう八号地の占有を始め、昭和二三年一二月二五日、六五番地の土地につき前記の換地予定地の指定があつた後、昭和二七年三月一五日に至り、仮換地後の第二の土地の占有を訴外西原に譲渡し、ついで、同人は昭和二八年五月四日右土地の占有を被告に譲渡することにより、順次その占有を承継して現在に至り、右石原、西原、被告はいずれもその占有を始めるについて従前の土地である第二の土地が自己の所有に属すると信じたことについて何ら過失がなかつたのであるから、被告は石原、西原の占有期間を合わせ、石原が占有を始めたときから一〇年を経過した昭和三〇年一二月末ころ、時効の完成により第二の土地の所有権を取得し、右土地に対する所有権に基づいて本件土地につき使用収益権を有するものである。
三 かりに右の主張が認められないとしても、被告は昭和二八年五月八日、仮換地後の第二の土地の占有を取得したものであるが、被告はその占有を始めるについて従前の土地である第二の土地が自己の所有に属すると信じたことについては何ら過失がなかつたのであるから、右日時から一〇年を経過した昭和三八年五月八日時効の完成により第二の土地の所有権を取得し、右土地に対する所有権に基づいて本件土地につき使用収益権を有するものである。
四 かりに右の主張が認められないとしても、石原は昭和二〇年一二月ころ原告に対し、当時における土地の時価相当額以上の金額である一万五〇〇〇円を支払つて第二の土地を含む八号地の賃借権を取得し、爾後賃料の支払を免除されていたものであるが、西原は昭和二七年三月一五日石原から、被告は昭和二八年五月四日西原から、順次右土地に対する賃借権の譲渡を受け、第二の土地に対する賃借権に基づいて本件土地を使用占有するものである。
4 抗弁に対する認否
一 抗弁第一項に対する認否および被告の主張は、反訴請求原因に対する認否一項ないし六項として主張するところと同一であるからこれをここに引用する。
二 同二項の事実は否認する。石原は八号地を原告より借受けて占有していたもので、かりに第二の土地が石原より西原に、西原から被告に順次売買によつて譲渡された事実があつたとしても、西原および被告は右土地を買受けるに際し、登記簿上の所有名義人である原告に照会して右土地に対する売渡人の所有権の有無を確認すべきであつたにもかかわらず、これを怠り、漫然買受けたものであるから、西原および被告が、第二の土地の所有権を有効に取得したと信じたことについては過失があつたといわなければならない。
三 同三項の事実は否認する。第二の土地が被告の所有に属すると信じたことについて過失のあることは前項主張のとおりである。
四 同四項の事実は争う。原告が石原に対し八号地を貸与するに至つた事情は、反訴請求原因に対する認否中五項で主張するとおりであり、右土地の貸借関係は使用貸借である。
5 再抗弁
一 抗弁第二項の時効による所有権取得の主張に対し、原告は石原に対し八号地を無償で貸与したのであるから、石原の第二の土地に対する占有はいわゆる他主占有であり、従つて西原、被告らの仮換地後の第二の土地に対する占有は所有の意思を欠くというべきである。
二 抗弁第四項の賃借権の主張に対し、
(一) かりに石原が第二の土地を含む八号地につき賃借権を有していたとしても、従前の土地につき賃借権を有するものは、大阪復興特別都市計画事業の施行者である大阪市長より換地予定地につき使用収益部分の指定を受けることによつて始めて換地予定地を使用収益し得るのであるが、被告はその指定を受けていないのであるから本件土地に対する使用収益権を有しない。
(二) かりに右の主張が認められないとしても、八号地についての賃貸借は終戦後の社会経済が混乱の域を脱するまでの間の一時的な使用を目的とするものであるところ、少なくとも昭和二八年の朝鮮動乱の終結により期限が到来し、右賃貸借契約は終了した。
(三) かりに右の主張が認められないとしても、石原は昭和二七年三月一五日ころ、西原に、西原は昭和二八年五月四日ころ被告に、順次原告に無断で八号地の賃借権を譲渡したので、原告は昭和四七年五月一二日の本件口頭弁論期日において、同月一〇日付準備書面に基づいて陳述することにより被告に対し右賃貸借契約を解除する旨の意思表示をなした結果、右賃貸借契約は解除された。
6 再抗弁に対する認否
一 再抗弁事実はすべて争う。
第三 反訴についての当事者の主張
1 反訴請求の原因
一 大阪市天王寺区上本町七丁目六五番地の土地はかつて原告の所有であつたところ、原告は昭和二〇年一二月ころ、当時その所有に属していた右六五番地の土地と大阪市天王寺区上本町七丁目六六番地、同町七丁目六七番地、同町八丁目四六番地、同区東平野町四丁目六番地、同町四丁目一〇番地所在の土地合計二五〇〇坪を、一区画約五〇坪として五〇区画に分割して譲渡することを計画し、訴外山口天龍、同平尾初吉にその管理処分等一切を委託した。
二 訴外石原三郎は昭和二〇年一二月ころ、原告からその代理人である山口天龍を介し、右分割にかかる一区画一三四・一四平方メートル(四三・三〇坪―甲第一号証の分割図中符合8と表示してある土地に該当する。以下単に八号地という)を代金一万五〇〇〇円で買受けてその所有権を取得し、右地上に木造瓦葺平家建店舗兼居宅一棟を建築所有するに至つた。
三 その後右八号地の属する六五番地の土地の一部を含む前記数筆の土地につき、大阪復興特別都市計画事業に基づく土地区画整理があり、昭和二三年一二月一五日施行者である大阪市長より大阪復興特別都市計画土地区画整理上汐町工区一〇ブロツク符合四(三三五〇・六四平方メートル)が換地予定地として指定された。
四 石原はその後八号地の一部一五・八六平方メートル(四・八坪)を訴外石原秀男に譲渡し、その残地である別紙第二目録記載の土地(以下単に第二の土地という)とその地上建物を訴外西原肇に代金八〇万円で譲渡し、被告は昭和二八年五月四日ころ西原より右第二の土地とその地上建物を代金二〇〇万円で買受けてその所有権を取得するとともに、仮換地後の第二の土地に対する使用収益権を取得した。
五 その後昭和三六年大阪市都市計画による道路拡張のため、道路敷地として一五・九二坪(別紙図面中(イ)(ロ)(ヌ)(ヘ)(ト)(チ)(リ)(イ)の各点を順次直線で結んだ範囲の土地)が道路敷に買収され、その際大阪市の指示により二・二六坪(別紙図面中(ロ)(ハ)(ニ)(オ)(ル)(ヌ)(ロ)の各点を順次直線で結んだ範囲の土地)の占有が第三者に譲渡され、他方五・三坪(別紙図面中(ニ)(カ)(ヨ)(タ)(ヘ)(ホ)(ニ)の各点を順次直線で結んだ範囲の土地)の占有を被告が取得した結果、被告は現在第二の土地に対する所有権に基づいて本件土地を使用占有している。
六 しかるに原告は、本訴において、被告が西原より買受けた第二の土地に対する被告の所有権を争い本件土地の明渡を求めているので、第二の土地が被告の所有に属することの確認を求める。
七 なお石原が原告から八号地を買受けるに至つた経緯事情はつぎのとおりである。
(1) 原告はかつて大阪市天王寺区上本町、同区平野町等に本件六五番地の土地を含む約三〇〇〇坪の土地を所有していたが、昭和二〇年戦災により地上建物が焼失し、附近一帯は焼野原となり、終戦後その焼跡を不法占拠する者が続出し、進駐軍より町内会長の地位にあつた平尾に対し「右土地を所有者において管理せよ。若し管理のできない場合は進駐軍において適宜処置をとらなければならない」旨土地所有者に伝えるよう申出があり、原告は右平尾からその旨を聞き、かねてから原告所有の土地の管理処分等を委ねられていた山口と平尾にその処置を委任した。
(2) 原告およびその息子小出正己と山口とは、山口の経営する全勝株式会社の役員の地位に原告および正己が就任し、また山口は右原告らの依頼により三等郵便局を作るのに必要な資金として一〇万円の金員を調達し、また正己が召集された際同人および原告から頼まれて原告方の面倒をみる等戦前より懇意な間柄にあり、正己の復員後も種々面倒をみていたものである。
(3) 右のような事情で原告から土地の管理処分を委ねられていた山口は正己の指示により前記土地のうち約二五〇〇坪を五〇区画に分割して売却することとなり、売却予定地には土地入用の者は山口の事務所に申出ることを記載した立札を立てていた。
(4) 右土地の売買について、原告の税金対策のため直ちに所有権移転登記をなさず、適当な時期まで原告名義のままとしておくこと、価格は坪当り三〇〇円とし、土地の整地料は買主において負担すること、買主が土地の所有権移転登記が終るまで第三国人に転売することを防止するため、公正証書を作成すること、ただし買主は自由に土地を使用することができ所有権移転登記を了するまでの間の税金は売主である原告において負担すること等の条件があつた。
(5) 石原は右原告の申出に応じ、八号地を、原告から一万五〇〇〇円で買受けたものであるが、右のような理由で所有権移転登記未了のまま経由していたものである。
2 反訴請求原因に対する認否
一 請求原因一項中、六五番地の土地が原告の所有であつたことは認めるが、その余の事実は否認する。右土地は現在も原告の所有に属する。
二 同二項は否認する。
三 同三項中、八号地の属する六五番地の土地につき、大阪市復興特別都市計画事業の施行に伴う土地区画整理があり、施行者である大阪市長より、被告主張の日時に換地予定地の指定があつたことは認めるが、右六五番地の土地に対応する換地予定地は大阪市復興特別都市計画土地区画整理上汐町工区九ブロツクの符合五宅地二二三六・三六平方メートル(六七六・五〇坪)であり、第二の土地は右換地予定地に属する。その余の事実は否認する。
四 同四項の事実は否認する。
五 同五項の事実中被告が現に本件土地を使用占有することは認めるが、その余の事実は争う。
六 原告は石原に八号地を無償で使用貸借したもので、その事情はつぎのとおりである。
(1) 原告はその息子正己とともに天王寺区上本町六丁目、七丁目、同区東平野町等に約三〇〇〇坪の宅地を所有し、その地上に建物を建築して貸家としていたが、戦災により全部焼失し、土地は焼野原となつたが終戦後米軍の進駐による接収や闇市の発生を防止する目的で一応終戦による混乱を脱し、世情安泰になるまで一時他人に使用貸借することを計画し、右土地を五〇坪一区画として五〇区画に分割し、希望者に対し、近畿日本鉄道上本町附近一帯を繁栄させることを目的として無償で貸与し、借主は美観を損じない応急的な仮設店舗を建設する。借主は一坪につき約三〇〇円の割合による保証金を原告に預ける。原告は経済事情の変動等により保証金の額が低きに失したときは保証金の増額の請求ができる。転貸、権利の譲渡、地上建物の第三者の使用を禁止する。行政官庁若しくはこれに準ずる者より仮設店舗の撤去を命じられたとき、または原告において本建築をなすため本件土地を使用する必要が生じたとき、若しくは無断転貸、権利譲渡したとき、原告は契約の解除ができる等の約定によつて貸与することとした。
(2) 原告は訴外弁護士宮武太に契約条項の作成を依頼し、その成案を得て、当時現地でやや顔の売れていた山口天龍に希望者があれば紹介して貰うことを依頼した。原告は右山口に原告の代理人として、賃貸借、売買等をなす権限を授与した事実はないが、山口が締結した使用貸借契約を追認した事実はある。
第四 立証(省略)
(別紙)
第一目録(本訴関係)
一 土地
(従前の土地の表示)
大阪市天王寺区上本町七丁目六五番地
宅地 三八六四・四五平方メートル(一一六五・六九坪)
(換地予定地の表示)
大阪市復興特別都市計画土地区画整理上汐町工区九ブロツクの符合五
宅地 二二三六・三六平方メートル(六七六・五〇坪)
右換地予定地のうち八四・六六平方メートル(二五・六一坪)
(別紙添付図面中(ヌ)(ル)(オ)(ワ)(ニ)(カ)(ヨ)(タ)(ヘ)(ヌ)の各点を順次直線で結んだ範囲の土地に該当し、二記載の建物の敷地部分である)
二 建物
右土地の地上所在
家屋番号 上本町六五番の一
木造瓦葺二階建店舗並居宅
一階 二四坪八合五勺
二階 二一坪三合
第二目録(反訴請求関係)
大阪市天王寺区上本町七丁目六五番地
宅地 三八六四・四五平方メートル(一一六五・六九坪)
右土地のうち宅地一二七・二三平方メートル(三八・四九坪)
(別紙添付図面中(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(チ)(リ)(イ)の各点を順次直線で結ぶ範囲の土地に該当する)
備考
1…イ、ロ、ハ、ニ、ホ、ヘ、ト、チ、リ、イの各点を結んだ線内の土地……従前の土地(A+B+D)
2…ヌ、ル、オ、ワ、ニ、カ、ヨ、タ、ヘ、ヌの各点を結んだ線内の土地……仮換地後占有の土地(B+C)
A…イ、ロ、ヌ、ヘ、ト、チ、リ、イの各点を結んだ線内の土地……従前占有現況市有道路になつた土地
B…ヌ、ル、オ、ワ、ニ、ホ、ヘ、ヌの各点を結んだ線内の土地……従前より仮換地後も占有している土地
C…ニ、カ、ヨ、タ、ヘ、ホ、ニの各点を結んだ線内の土地……仮換地後占有した土地
D…ロ、ハ、ニ、ワ、オ、ル、ヌ、ロの各点を結んだ線内の土地……仮換地後他人の占有となつた土地
<省略>
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